
温水式床暖房に組み入れる循環ポンプの選定ポイント
流量と揚程の要求を満たすことが重要
温水暖房回路には、配管・継手・バルブ・ストレーナなど多くの部材が含まれており、それぞれで圧力損失が発生します。したがって、システム全体が要求する流量と揚程を把握し、ポンプ選定を行うことが不可欠です。
例えば「温水式床暖房マット」を放熱端末に使ったシステムであれば、部材が少なくて済むので圧力損失は小さくなります。そのため「熱源機内蔵の循環ポンプで十分」と思いがちですが、配管距離が長い場合や上層階への送水回路がある戸建住宅の場合は、循環不良のリスクが高まります。
システムが要求している「流量」を求める
「要求流量」とは、放熱端末である「温水式床暖房マット」の仕様書に規定された流量を満たす時間当たりの送水量です(単位:L/minや㎥/H)。要求している流量を下回ると、設計出力を発揮できず、暖まり不足などのクレームの原因となります。
求め方はとてもシンプルです。システムに使用する温水式床暖房マットの仕様書に記載された「標準流量」をすべて足し算してください。
例/標準流量4L/minの温水式床暖房マットを5枚使用する場合 →要求流量=20L/min となります。
システムが要求している「揚程」を求める
「要求している揚程」とは、以下の合計値を指します。
- 配管の摩擦係数(圧力損失)
- 液面高低差による位置エネルギーの差である実揚程(圧力損失)
- 温水式床暖房マットの流体抵抗値
全揚程=(配管の圧力損失)+(液面高低差による圧力損失)+(温水式床暖房マットの流体抵抗値)
全揚程と循環ポンプそのものの吐出能力の比較により選ばなくてはいけません。
液面高低差については、水を1mの高さに持ち上げるのに10kPa程度の圧力が必要です。これをkPa換算に統一することで、配管や部材の流体抵抗値との合算が容易になります。
→システムが要求している揚程よりポンプ揚程が小さい場合、循環不良が発生します。
圧力損失も求めるために必要な情報
配管を流れる循環液には常に抵抗がかかり、これを配管の圧力損失で「摩擦損失水頭」と呼びます。
算出には前項で求めた流量と管種ごとの特性値が必要です。グラフや資料が必要です。

三菱ケミカルインフラテック株式会社冷熱管材総合カタログより抜粋
各回路毎の圧力損失を求めるための情報
前項のグラフを基に、流量に応じた各回路ごとの①摩擦損失水頭を入れます。さらに①と②配管長を掛けると③の各回路の配管だけの圧力損失が求められます。そこに④の高さと⑤放熱端末の圧力損失を加えると各回路全体の圧力損失が求められます。この中で最も大きな値がシステム全体の「圧力損失(揚程)」となります。
管径 | 流量 | ①摩擦
損水水頭 (kPa/m) |
②配管長
(m) |
③配管
圧力損失 (kPa) |
④高さ(m=10kPa) | ⑤放熱端末
圧力損失(kPa) |
枝管合計
圧力損失(kPa) |
10A | 4L/min | 1.3 | 14 | 18.2 | 0 | 30 | 48.2 |
10A | 4L/min | 1.3 | 8 | 10.4 | 3 | 18 | 58.4 |
10A | 4L/min | 1.3 | 15 | 19.5 | 0 | 17 | 36.5 |
7A | 4L/min | 6 | 5 | 30 | 0 | 20 | 50 |
7A | 4L/min | 6 | 7 | 42 | 0 | 16 | 58 |
7A | 4L/min | 6 | 4 | 24 | 0 | 16 | 40 |
循環ポンプ選定のポイント
不凍液対応が必須
温水暖房の循環液には、グリコールや防錆・防食添加剤が含まれています。
そのため、不凍液対応ポンプを選定することが必須です。非対応のポンプでは、駆動部に堆積したり、細かな粒子による不具合の原因となります。
システムの流量と揚程を満たす能力を確認
循環ポンプには、選定図や性能曲線図といった能力を記した表があります。この図を参考にして、必要な揚程、流量を満足する機種を選定します。
ここでは縦軸=揚程、横軸=流量を表しています。
小型温水循環ポンプUPS
UPSシリーズは、温水暖房用途で長年の実績がある信頼性の高い循環ポンプです。
品番 | オスねじ | ユニオン |
UPS20-30N150 | G1-1/4 | Rp3/4 |
UPS25-60-180 | G1-1/2 | Rp3/4 |
UPS25-70-180 | G1-1/2 | Rp1 |
UPS32-80-180 | G2 | Rp1-1/4 |
選定例
例題:圧力損失が60KPa、流量25L/minの温水暖房システムに対応する循環ポンプはどれでしょうか?
1、まず縦軸の揚程を確認します。60KPa=6mですから、該当するのはUPS32-80です。
2、次に横軸の流量範囲を確認すると25L/minはいずれの機種でも対応可能です。
3、よって、この条件ではUPS32-80が最適機種と判断できます。
まとめ
放熱端末に「温水式床暖房マット」を使用した温水暖房システムでは、多くの場合は熱源機内蔵の循環ポンプの能力で対応できます。
しかし、配管距離が長い回路や上層階への送水する回路を含む戸建住宅では、循環不良による温度ムラが発生する恐れがあるので、システムが要求する流量と揚程を確認しておく必要があります。
もし要求を満たせない場合は、別途循環ポンプを手配してください。その際は、性能曲線図で能力を確認することに加え、不凍液対応であるかどうかを必ず確認することが重要なポイントです。このブログが循環ポンプ選定の参考になれば幸いです。
※2019年4月11日に公開した記事を校正を重ね、2025年8月22日に再度公開いたしました。

大宮彰大

最新記事 by 大宮彰大 (全て見る)
- 温水式床暖房に組み入れる循環ポンプの選定ポイント - 2025年8月22日
- 温水暖房の漏洩検査に便利な「CHゲージセット」 - 2025年8月21日
- 【保存版】銅管から架橋ポリエチレンパイプ・CH接続への変換ガイド! - 2025年8月21日